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くま社長閑話 Vol.233 「いよいよ、意を決して」

久々の登場である。

時は平成二十年、蝦夷地はサツポロ。

このくま社長、いよいよ、不退転の決意なのである。先日、とある催し物会場で、奮発した。

大島を購入したのである。紬、である。

無論、中古も中古、古着中の古着。

そいつはなんと、本来はキルトの材料にするために丸まってカゴにゴチャっと、何着も売っておったわけで、ブースのおかみさん曰く、「そりゃね、切ってキルトに使うもんでさ」。

しかし、不肖くま社長、ビクっと来た。

ファーストインプレッションを今までの生涯、一度も外したことがないのがこの不肖くま社長の唯一の自慢である。

「や、やばい。」(まるでわしに買ってくれ、と云わんばかりに、何かを放っている)

本来であれば、この質感、相当の値が張るはずである。

不肖くま社長、絵画や陶芸、彫刻やその他、音楽など、ゲイジュツには、相当、造詣が深いのである。無論、織物の知識もワインの知識なみに持っておる。(はずだ)

「わ、わしの目に狂いは、ない。」(かもしれない・・・・。いや、そうだ。)

不肖くま社長、一旦、この生涯を悩ます衝動買い癖に重い重石を載せ、そのブースから、引き下がった。

「なにも、見なかったことにしよう。」(はぁー、あぶないあぶない)

が、しかし。


不肖くま社長、もう一つ、親から授かった素晴らしい特質がある。

動体視力。

出張で利用するJR北海道の自慢の振り子特急、スーパー北斗の車窓から、森林に生息する、猛禽類の類を識別し、彼らの寝床である、営巣をものの見事に探し当て、ひいふうみいよ、と数える事も出来てしまうのである。

ふと、この目に飛び込んだものは、値札、であった。

既に古着中の古着、もともとキルトの材料である。モノの値も、ないもんである。

そこにはなんと、¥8,000-と表示してあるではないくぁ!

とあるイベントはその日、最終日を向かえ、催事終了まで残すところあと、1時間20分ほどであった。

我輩は、しばし場内を徘徊する事に決めた。


次に通りかかったとき、その値札に記述された8000の文字に太い黒マジックで線が曳いてあるのを目撃した。なんと、一気に¥5,000-になっていたのだ。(どきどき)

しかし、不肖くま社長、もう一巡、逸るキモチを押さえつつ、大人(たいじん)ぶって、まるでもう既にその大島を羽織るが如く、袂に両手を入れて、つらり、と流し目で風流を気取るように、相当ガマンしながら、さらにもう一巡する事に決めた。(はあはあ)


総じて三順目。
閉館まで、残すところ僅かに40分たらず。
遠巻きに、ちらっ、と覗いて見た。

来た。ついに、来た。

なんと、その値札にある8000が打ち消され、なお5000の文字にも太いマジックで、半ばほぼやけくその風で、メチャクチャに線が引かれ、その下に、つまり、そう大きくはない、POPの代わりのダンボールで作成せられた手づくり値札には、そう何度もプライスダウンの値段が書き込まれる余白も持たず、右下の隅に、小さく、

¥3,500-

と、もう売り手も意気消沈、なんでも持ってけドロボー的な、もうなにがなんだかわからない様子。

決めた。突入である。

前述のブースのおかみさんとの会話は実にこのときのものである。

「おかあさん、これ、袖を通してもいいかい?」

「あんれ、まあ、悪くはないけんども、ちょっとにいさんには、つんつくてんかなぁー」

「いや、これが風流と云うものだ。」

「いやぁー、にいさん、背が高くって、いいオトコだもんね、何着ても似合うわぁ」

「・・・・・・・・・。(そ、そうか)」

「いやぁー、にいさん、しっかし、なんでそれが気に入ったのさぁー?
いまウチに出してる大島のなかじゃ、それが一番一等品だぁ。いやぁーたいした目ぇ、してるなぁー。わかるぅかい?」

「なに、経験や知識では、ない。直感だ。」

このおかあさんは本店を青森で出店されているそうでまた、銀座にも支店を設えているという。

「いまのナウぃにいさんねえさんがたは、銀座でもさぁ、このなかに、派手なロックだかなんだかのTシャツっつーのかい、あれをきてさぁ、着流してるもんだぁ。」

「ナ、ナウぃ・・・・。まあいい、これをいただこうか。」

「いやぁ、にいさん、さっきから、ちろちろ、これば見てたべ。ふっふっふ。」

瞬間、赤面かかった。

「うむ。良いものは年季が入っても良いし、却って経年変化と云って、」

「まぁ、なんだかわかんねけども、にいさん、いいおとこだから、¥500引いてあげるよ」

「(そっ、それはありがたいっ。)袖擦る縁もなんとかと云うもんだ。ありがたい。」

古着でも銀座では、2、3万はするそうである。(ホントか?)

¥3,000-(税込)で目出度く、購入した。


スーパーの買物ビニール袋に乱暴に丸めこまれた大島は、かくして、我輩のものになった。
我ながら、いい色合いのものを手に入れることが出来たと感心して、早速、会場施設のトイレに、大島を持って入り、大きな手洗い鏡の前で、袖を通してみた。

「ふ、ふふふふふふ。似合う。」

自画自賛である。

ふと、袂に両の手を入れてみた。
なにやら奥の奥、縫合の縫い目の辺りが、綿ゴミだらけのようである。
まぁ、古着中の古着、しかたあるまい。

袂をひっくり返して、ゴミ掃除をしようとした、その時、右の袂のなにやら、ある。

紙くずのようであった。

取り出してみたら、かなり、それこそ経年変化した黄色い、紙になにやら、小さい文字が並んでいた。広げてみると、それは新聞紙の破片であった。

昭和11年、とだけ判別できるその古新聞の破片は明らかに、手でちぎって丸めて、そうして袂に放り投げいれたものと判別せられた。何かの雑誌の広告で、そこにその年号が掲載せられていたのである。

その裏。

不肖くま社長、このときほど、戦慄を覚えたことは、過去に記憶が、ない。
人探しの広告だったのである。

○○、連絡乞う 父

この大島を、おかみさんは青森の、あるいは、どこぞで仕入れたのか、まるで判らぬ。

その古新聞は、それはもう、手でちぎって、それを袂に放り込んだような形相であり、間違いなく、そのまま、この大島の袂に眠ったまま、平成20年を迎えたわけである。

掲載を依願した父の方であろうか、あるいは、掲載を発見し、思わずその箇所を引きちぎった、息子の方であろうか。

大島の持ち主の行方は、誰も知らない。

2008-06-12 10:02 鉢直人


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